大泉洋、新境地の“真面目役”

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大泉洋、これまでと違う『真田丸』の“真面目役”で新境地

2016年2月13日 オリコンスタイルより記事抜粋

バラエティ番組や俳優としても大活躍の大泉洋さん。大河「真田丸」では、真田信幸という真面目な役に挑戦しておられます。その役柄についてのインタビュー記事をご覧ください。

 

大泉洋の新境地

高視聴率男・堺雅人率いる、NHK大河ドラマ『真田丸』。主役級の俳優陣が顔を揃える超豪華競演で、武田勝頼役の平岳大、小山田茂誠役の高木渉、織田信長 役の吉田鋼太郎、明智光秀役の岩下尚史をはじめ、主人公・真田信繁(堺)以外の登場人物たちの話題にも、毎回事欠かない人気ぶりを見せている。そのなかで もとくに“意外性”で評判を呼んでいるのが、信繁の兄・信幸(信之)を演じる大泉洋だ。地元・北海道から東京に進出して10年となった昨年は朝ドラ『ま れ』や主演映画『駆込み女と駆出し男』への出演をはじめ、銀幕で最も輝いた男優として第58回ブルーリボン賞主演男優賞を受賞。脂の乗った大泉が、これま でとは異なる役柄で新境地に挑んでいる。

 

家のために真面目に尽くす、理想の長男役

したたかな外交戦術で、小国ながら乱世を生き抜いた戦国大名の真田一族だが、関ヶ原の戦いでは、父・昌幸、弟・信繁と袂を分かち、お家存続のためにひと り、徳川家康側につくという、過酷な道を進んだ嫡男・信幸。関ヶ原後は、家康に父や弟たちの助命を嘆願し、蟄居生活を送る家族への仕送りを続けながら、幕 末まで松代藩主を務め、真田家を守り切った。大泉が『真田丸』で演じているのは、“のるかそるか”が家風の真田家で、家のために真面目に尽くす、理想の長 男である。

朝ドラ『まれ』での愛すべきダメ親父やTEAM NACSでの舞台など、これまでのコミカルな役どころとは違った、堅いキャラクター(しかも歴史上、実在した人物)への重責感からか、キャスティング当初 は大泉本人も会見の場で「とてもふざけられない。そのことを強く意識した結果、かたくなり過ぎて、うまくしゃべれない自分にガッカリしました(笑)」と心 境を吐露していた。

しかし、ドラマがスタートしてみると、そんな実直な長男像を好演している大泉は、これまでとは異なる新鮮な魅力を 放っている。第2回「決断」で、父・昌幸(草刈正雄)のもとへ真田家一行が向かう道中、野盗を斬ることを躊躇した信繁に「ためらうな、おまえのためではな い、一族のためだ」と叱咤するその横顔には、一族を導く長としての凛々しさが漲り、ほとんど見たことのない大泉洋の姿があった。

 

実直な役柄にも芸達者な大泉ならではのおもしろさ

信繁とは対照的な、信幸のまっとうなキャラクターは、初回から主人公並みに丹念に描かれている。次男坊・信繁の自分勝手な行動をいさめながらも、一緒に父 上に謝ってやる優しさも持ち合わせる兄に対する、信繁の信頼も厚い。武田勝頼を裏切った、姉・松(木村佳乃)の夫・小山田茂誠が現れたときにも、信繁は 真っ先に兄に相談した。厳しい決断を迫らざるを得ない立場の信幸だが、弟や姉たちの気持ちを思いやり、何度も目をつぶってやることになる。第4回「挑戦」 で、織田家の人質として松を、茂誠とともに安土へ送り出す信繁のアイディアを察知した信幸が、姉弟の意を汲んで、両親や祖母を説得する場面は、兄弟の固い 絆が感じられる、仲睦まじいシーンだった。

頼もしい兄だが、駄々っ子の母や、向こうっ気の強い祖母には強く言えず、そんなときは信幸に 代わり、信繁が話術で取り繕うなど、実に調和のとれた関係が築かれている。終始慎重な信幸だが、ギャグで笑わせるのではなく、信繁とのちょっとした会話の ズレから、信幸のおもしろ味が垣間見れる楽しさは、芸達者な大泉ならではのうま味だろう。

『真田丸』の脚本を手がける三谷幸喜氏によれ ば、英雄を父に持つ「“二代目”が抱えていた誇りとコンプレックス」が、隠しテーマになっている本作。第2回で、武田勝頼の無惨な死を大いに嘆いた信幸も また、父に翻弄された悩める二代目であった。第1回「船出」から、父・昌幸の器の大きさについていけないと自覚していた信幸は、父の策略と決断に毎回驚か されるばかりだ。第3回「策略」で、生真面目な性格を見越した父に欺かれたことを知った、信幸の落胆ぶりはいたわしい限りだった。

歴史 の大きなうねりのなかの一族の姿を描く物語で、信幸のキャラクターは重要なアクセントになっている。その人物像を見事に体現している大泉は、俳優としての 存在感をまざまざと見せつけた。コミカルな役が得意で器用な“軽量級”俳優のイメージが持たれがちだったかもしれない大泉が、大河ドラマという大きなス テージでこれまでのイメージを払拭するような“重量級”の顔をのぞかせている。

いわゆる真面目なイメージではない人が演じる「真面目な人」 これが、何か人間の裏側にあるものをコミカルに人間臭く、また愛情たっぷりに描く三谷脚本の面白さではないでしょうか

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