NHK大河、視聴率1位の主人公は? データが語る日本人の歴史偏愛っぷり

NHK大河、視聴率1位の主人公は? データが語る日本人の歴史偏愛っぷり

2023年のNHK大河ドラマは松本潤主演の『どうする家康』。統計データ分析家の本川裕さんは「歴史好きの国民に応える形で放映されている大河の関心は高い。国民のテレビ離れを抑止する最後の手段となっている」という――。 47都道府県「地元代表の歴史上の人物」は誰か? 日本人の歴史好きはよく知られている。NHK大河ドラマをはじめとする日本の歴史に題材をしたテレビドラマには多くの関心が集まり、小説の中でも時代小説、あるいは歴史小説の人気は高い。歴史小説だけでなく学術的な歴史本がベストセラーになることもめずらしくない。多くの日本人がお気に入りの歴史上の人物を心に抱いている。 2006年には財団法人日本城郭協会による「 日本100名城 」の選定をきっかけに「お城ブーム」が起こった。最近は女性の歴史ファンも多くなり、「歴女」なる新語も生まれている。 今回は、こうした日本人の歴史好きを反映したような統計データをいくつか取り上げ、われわれの自己認識を少しでも深めることにしよう。 ソニー生命が昨秋に行った調査で「 自県を代表すると思う歴史上の人物 」があり、各県で最も多かった回答結果の人物を日本地図上に示した(図表1参照)。 図版=筆者作成 複数の都道府県で挙げられた人物をみると、「徳川家康」は栃木県、東京都、静岡県で1位となった。栃木県には家康を祀る日光東照宮があり、東京都は家康が江戸幕府を開いた江戸城(のちの皇居)のある場所、静岡県は家康が幼年期(人質時代)や晩年(大御所時代)を過ごした場所と、それぞれの地域にゆかりがある。 愛知県は尾張と三河から成っている。名古屋を含む尾張の人口ウエートが高いため、織田信長が挙げられているが、三河の方はやはり徳川家康であろう。世間一般では家康といえば静岡が有名で家康の生誕地である岡崎は全国的に知られていないと嘆く岡崎市民も多いという。 愛知県は「信長」推しだが、岡崎市は「家康愛」 2023年放映中のNHK大河ドラマ「どうする家康」にあわせて、徳川家康の生誕地、愛知県岡崎市はこの年を「家康イヤー」にしようと、ドラマを活用した各種イベントを通じ、市を挙げてPRに取り組んでいる。また、家康が生まれた岡崎城ではドラマ放送に合わせて1992年以来の大規模改装を実施している。 図表1に戻ると、家康のほか、「織田信長」は岐阜県、愛知県、滋賀県、「上杉謙信」は山形県と新潟県、「坂本龍馬」は高知県と長崎県とそれぞれ出身地および活躍地で1位となっている。大阪で挙げられた「豊臣秀吉」は、関白という役職、聚楽第や居城・伏見城の立地、御土居(おどい=京都を囲む土塁)の建造などから京都でも挙げられていてもよいはずだが京都人は秀吉の下品なところが気に入らないのか、あるいは大阪への対抗心からか、むしろ「足利義満」を選んでいる。 地域分布に関しては、日本列島の東西(北海道・東北や中四国・九州)では明治維新以後の人物が多いのに対して、日本列島の中央部(中部・北陸・近畿)では、戦国武将など近世以前の人物が多いという対比が見られ、歴史舞台の変遷を感じさせる。 全体として、江戸時代までの武士や明治維新の志士・政治家・論客を掲げる県が多いが、文学者を挙げる県も、青森の太宰治、岩手の宮沢賢治、三重の松尾芭蕉(現在の伊賀市出身)、島根の小泉八雲、愛媛の正岡子規、宮崎の若山牧水などけっこうある。 福島の野口英世、千葉の伊能忠敬、北海道のクラーク博士など研究家・教育者の場合もある。なお、外国人は島根の小泉八雲と北海道のクラーク博士の2人。 実業家を挙げたのは埼玉の渋沢栄一のみ。また、宗教家は香川の空海のみ。めずらしいのは絶世の美女として知られる女流歌人小野小町を挙げた秋田だろう。奈良の聖徳太子、兵庫の平清盛、岡山の犬養毅などもやや異色である。 沖縄県民が挙げている尚巴志(しょうはし)王は、沖縄を初めて統一し琉球王国を樹立した人物として知られる人物であるが、沖縄以外ではややなじみが薄い。 安定的に高いNHK大河ドラマの視聴率推移 日本人の歴史好きをいやでもかき立てているのはNHKが毎年、日本史上の人物を取り上げてドラマ化している大河ドラマである。 毎年、年間を通じて放映されるNHK大河ドラマは、取り上げられた時代や人物についての歴史本や小説がベストセラーになったり、舞台となった地域自治体がそれを契機に観光振興や関連するまちづくりを積極化したりし、総じて国民の大きな関心を集めることで知られている。 図表2には、2000年以降の各番組について、世帯視聴率の推移を掲げた。 図版=筆者作成 もっとも視聴率(期間平均視聴率)が高かったのは、江戸時代末期、薩摩藩から将軍家に嫁いだ天璋院篤姫を描いた2008年放映の「篤姫」(宮崎あおい主演)の24.5%だった。次点は、戦国武将前田利家とその妻まつを描いた2002年放映の「利家とまつ」(唐沢寿明・松嶋菜々子主演)の22.1%だった。 逆に視聴率が最低だったのは、翌年開催が予定されていた(実際はコロナのため一年延期された)東京オリンピックにあわせ、日本人初のオリンピック選手となった「日本のマラソンの父」金栗四三と東京オリンピック招致に尽力した田畑政治の2人の主人公にした2019年放映の「いだてん~東京オリムピック噺~」(中村勘九郎・阿部サダヲ主演)の8.2%だった。 初回視聴率15.4%「どうする家康」は期待を裏切れるか 戦国時代や幕末・明治維新などの純然の歴史ものは人気が高いが、現代にちかい大河は関心がいまひとつ高まらないと従来から言われていたが、それを実証するかたちとなっている。 視聴率の推移を見ると2000年代には20%前後だったのが最近は12~14%とやや低下傾向にある。ただし、最近は、ハードディスク録画が普及して録画視聴も増えている影響もある。 例えば、2017年の「おんな城主直虎」から2022年の「鎌倉殿の13人」にかけ、リアルタイム視聴率は12.8%から12.7%へと若干低下しているが、リアルタイム視聴と録画機能を使ったタイムシフト視聴のいずれかで視聴されたことを示す総合視聴率では、17.3%から20.2%へとむしろ上昇している。 総合視聴率は「おんな城主直虎」以降に発表されている値なので、図表2では従来のリアルタイム視聴率で表示しているのである。 若者の中にはテレビを持たない層も増えており、そうした点も踏まえるとこうした視聴率の推移からは、国民の歴史好きに応える形で放映されているNHK大河ドラマへの関心はなお高いと結論づけられよう。むしろ、大河ドラマが国民のテレビ離れを抑止する最後の手段となっているとさえいえるかもしれない。 図表2には初回視聴率の推移も掲げ、初回と期間平均との視聴率の差を「期待はずれ度」として表示した。 これを見ると2006年の「功名が辻」や「篤姫」のように事前期待がそれほど高くなかったのに実際は堅調な視聴率を維持し、初回より期間平均の方が高視聴率になったケースもあるが、ほとんどは多かれ少なかれ期待はずれとなっている。2010年以降では2018年の「西郷どん」は期待があまり高くなかったせいか期待はずれ度は最低であり、逆に最大は「いだてん~東京オリムピック噺~」だった。 「どうする家康」の初回視聴率は15.4%と低かったが、今後はどうなるだろうか。今のところ、期待を大きく裏切る視聴率の上昇は見込めなさそうである。 生きている歴史:日本各地で活動を続ける老舗企業 日本人の歴史好きは、実は、単なる趣味的な嗜好ではなく、そこには運命的な背景が隠れている。というのも、日本人にとって歴史は単なる過去の歴史ではなく、現在の生活の一部であるという側面が、海外の諸国民と比べて大きいからである。 聖徳太子にせよ、鎌倉幕府にせよ、天台密教にせよ、徳川家康にせよ、西郷隆盛にせよ、何らか現代に生きるわれわれの一部分を思い起こさせるのである。 植物学者・生態史家の中尾佐助は建築様式や食生活を例に挙げて日本が古代の習慣や文化を今に伝えている稀有な国であると述べている。 建築様式については、雨が多くじめじめした気候の日本や中国南部では高床式建築が合理的である。中国の江南では華北文化の影響で土間を基本とする建築に変わってしまったのに対して、日本ではもともと土間だった寺院までむしろ高床式に変化した。 また、食生活については、肉食を禁ずる仏教が優勢となった東アジア文明圏の中で古代から引き継いで基本的には肉食に復帰することなく、それを前提に肉の代わりとなるうま味を工夫し続けて、独自な日本料理を創出した点でも大陸諸国とは大きく異なっている。 みそ・しょうゆ、すし、だしなどの和食要素を生み出すとともに、その延長線上で海外から受け入れたラーメンやカレーなども新和食としてつくりかえ、それらが世界でも評判となっているのである。 島国であったため大陸国のように支配民族の大交代が起きなかった点から生じたこうした日本の歴史的独自性について中尾は次のようにまとめている。 <日本歴史では、社会も政治も、生活もいろいろ変化変遷してきた。しかしその変わりは全部連続性の上に構築されてきたという、世界歴史の上に、たぶん唯一の歴史になっているといってよいだろう。それは現在の社会に何をもたらしたのか。たぶんそれは古代の遺風、遺物を消し去ることなく、細ぼそとして、あるいは変化しながら、日本の国内のどこかに残してきたという効果を生じていると考えられる>(中尾佐助『 現代文明ふたつの源流 照葉樹林文化・硬葉樹林文化 』朝日選書、1978年、p.226~227)。 […]

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