歴史が苦手な人は学ぶ面白さの本質を知らない

歴史が苦手な人は学ぶ面白さの本質を知らない

APU(立命館アジア太平洋大学)学長の出口治明さん(左)と『ネットビジネス進化論』の著者・尾原和啓さんの「歴史」をめぐるオンライン対談をお届けします 歴史に関する本を何冊も執筆し、無類の歴史好きとしても知られるAPU(立命館アジア太平洋大学)学長の出口治明さんが、インターネットの歴史と進化の軌跡を描き出した 『ネットビジネス進化論』 の著者、尾原和啓さんと「歴史」をめぐってオンラインで対談。話題はダーウィンの進化論からコロナ禍による秋入学騒動、「仏教伝来=公共事業の発注」へと、目まぐるしく展開しました。全3回でお届けします。 進化論、5000年の歴史から見える不都合な真実 尾原和啓(以下、尾原) :インターネットの歴史と進化を見るにつけ、「先を見るには歴史を見なければならない」と痛感しましたが、出口さんはどうお考えでしょうか。 出口治明(以下、出口) :おっしゃる通り、一面では正しいと思います。ただ僕は、人間社会をコントロールしているのはダーウィンの進化論だと思っています。ダーウィンの進化論は極めてシンプルで、将来何が起こるのかは誰にもわからない。賢いものや強いものが生き残るとは限らない。何かが起こったときに、たまたまその近くにいるのが「運」です。偶然その場に居合わせて、うまく適応できたものだけが、結果的に生き残る。これがダーウィンの進化論のベースだと思うのです。 尾原 :そうですね。 出口 :歴史を知るということは、いろいろなケースを知るということです。文字が残っている限りでいえば、この5000年の間に起こったホモ・サピエンスの経験を知っておけば、何かが起こったときに適応するための参考にはなるかもしれない。 でも、歴史を学んだからといって必ずしも未来を予見できるわけではないと思います。どんなに賢い人でも、現状の延長線以上のものは考えることができない。だから、未来を予測することにはあまり意味がなくて、むしろ、ベーシックに考える力を養っておいて、どんなことが起こっても適応できるようにすることが大事です。ただ、そのための教材は、歴史以外にはないわけです。 尾原 :出口さんがおっしゃるとおり、ビジネスにおいては、自分の頭で考えることが何よりも大事です。しかも、ビジネスの経営は、過去のケースを学んで、そのとおりにやればうまくいくというものではなくて、他人と同じことをしていたら競争に巻き込まれてしまうので、他人と違うことをしなければいけません。そうすると、自分の頭で考えるというのを、どうやって学ぶのかという話になる。 出口 :それにはやっぱり問いを立てる力が必要です。もっとわかりやすくいえば、常識を疑う力。常識の衣をどこまで脱ぎ捨てることができるかが、とても大きいと思います。 尾原 :ネットビジネスの世界では、技術の進化のスピードが速すぎて、上手に波乗りできた人が勝つ、ということになりがちです。たしかに、どこに波が発生するかということについては「運」の要素が強いけれど、波を見つけたときに速く乗ればいいというだけではなくて、なぜそこに波が起こったのか、どういうところに波が起こりうるのか、新しい波が起こったときに前のルールを忘れて、ちゃんと新しいルールに飛び込んでいけるか、ということを身につけておく必要があります。 僕は「価値の相対化」という言葉が好きなんですけれども、これまでの日本は、製造業の勝ちパターンでずっと成功してきてしまったために、どうしても会社や学校のルールが「1つの価値観で勝てる」というふうになっています。でも、別の勝ち方もいっぱいあるし、自分の価値観が絶対ではない、ということを身につけるには、やっぱり歴史を知る必要があると思うんです。 出口 :おっしゃるとおりです。僕は素人ながらに歴史が大好きですが、歴史から学べることは2つあると思っています。1つは時間軸の観念が身につく。先ほどのサーフィンの波乗りの話も、ごく短い時間軸で考えたら、上手に波に乗る人のほうがうまく行っているように見えるかもしれない。でも、1年、2年うまくいくことと、5年、10年うまくいくことは別ですよね。そこは時間軸をどれだけとるかという問題にかかってきます。 尾原 :そうですね。 コロナ禍の秋入学問題、リーダーが取るべき決断とは? 出口 :今回のコロナ騒ぎで、時間軸をきちんと考えなかった典型が、秋入学の問題だと思っています。単純に考えたら、いまいちばん不安なのは、高3だと思うのです。日本では18歳のときの大学入試のウエイトがかなり大きい。 尾原 :人生にとっての一大事です。 出口治明(でぐち・はるあき)/1948年、三重県に生まれる。京都大学法学部卒。1972年、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退社。同年、ネットライフ企画株式会社を設立、2008年にライフネット生命保険株式会社と社名を変更し、社長に就任する。12年上場。社長、会長を10年務める。2018年、立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。 出口 :文科省は来年1月に試験をやるといっています。でも、もう7月です。高3の人たちは、ものすごく不安に感じていると思います。そうであれば、リーダーが言うべきことは1つで、「心配しなくても大丈夫。全大学に来年秋入学をやらせるから、2回入試のチャンスがありますよ」といえばいいのです。 尾原 :1月に受けてダメでも、もう1回受験できる! 出口 :そう話すだけで、たぶん、政権の支持率は上がります。でも、時間軸で考えると、小学校から高校までいっぺんに秋入学に変えるのはむずかしい。4月スタートになったのは、1886年に松方正義が国の会計年度をつくったとき以来ですよね。 尾原 :年度の終わりが3月末で、4月から新学期が始まります。 出口 :そういう長い歴史もあるから、小学校から高校については、今コロナで大変なので、5年くらいかけてアジャストする。これだけ言えば済むわけです。大学に秋入学をやらせるのは実は簡単で、「来年秋入学をやらなかったら交付金を減らす」といえば、みんなやります。それを小学校から全部一斉に画一的にやろうとするから、そんなのとてもできないという反対の声が上がって、せっかくの改革がお蔵入りになってしまうわけで、本当にもったいない。時間軸で問題を分けて考えれば、簡単に解決できる問題です。 尾原 :時間軸で考えるというのは、長く考えることだけではなくて、今いちばん困っている人をどう応急処置するかという視点と、これから5年、10年、下手すると50年続いていくかもしれない社会の仕組みを変えるときは、もっと時間をかける必要があるという視点を持つことです。つまり、外科治療と漢方治療みたいに、時間軸を2つに分けて考えるということですね。 出口 :「慌ててやらなくてもいい」と言えば、反対論は起こりません。僕はもともと春入学はとんでもない制度だと思っていて、なぜかというと、いちばん大変な入学試験を厳寒期にやらせるのは、制度的な拷問ではないかと思っているのです。 尾原 :オリンピックを酷暑の夏にやるのと同じですね(笑)。 出口 :一生がかかっているかもしれない大事な試験の日に、風邪をひいたり、大雪で試験場に行けなかったりする人がいることを考えれば、グローバル基準の秋入学のほうがはるかに優れているわけです。このように、時間軸で考えるという気づきを得られることが、歴史を学ぶ1つのメリットです。 […]

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