作家の半藤一利さん=東京都世田谷区で2017年4月21日、内藤絵美撮影 昭和史の研究に生涯をかけた作家、半藤一利さん(1930~2021年)の遺品や遺稿を紹介する特別企画展「歴史探偵 半藤一利展」が東京都千代田区九段南1の昭和館で開かれている。細かな字でびっしり書き込まれた創作メモやノートなど、初めて一般公開される直筆資料が並ぶ。徹底して事実に即して戦史や反戦の思いを伝えたその足跡をたどる。9月3日まで。【山田奈緒】 昭和館は22年夏、妻の末利子さんから遺品や遺稿の寄贈を受けた。まだ整理中だという膨大な遺品を含め約130点の資料を紹介している。終戦の玉音放送までの24時間を描いたノンフィクション「日本のいちばん長い日」の創作メモや、絶筆となったエッセー「歴史探偵 忘れ残りの記」のあとがき原稿もある。 展示からは、半藤さんが本を書き上げる過程が見える。例えば、「全軍突撃 レイテ沖海戦」(1970年、吉田俊雄さんと共著)の創作ノートには、1時間刻みの時系列で戦艦「武蔵」が沈没した日の動きをまとめている。執筆テーマを決めると当事者への取材や史料の検証を徹底し、虚偽の証言にだまされないよう、こうして日本軍や関係者の動きを緻密に整理した。 半藤さんに影響を与えた人物の資料からも、歴史を正しく伝えるために奔走していた姿が浮かぶ。半藤さんは正式に作家デビューする前の文芸春秋の社員時代、海軍記者の重鎮である伊藤正徳さんを担当。昭和史研究の素地が培われたとされる。伊藤さんの監修で「人物太平洋戦争」をまとめた際、伊藤さんは、軍人に取材を重ねる若き日の半藤さんに賛辞を送っており、その言葉を記した伊藤さん直筆の「監修者の私記」も展示されている。 会場では、14歳で体験した東京大空襲を語る動画も放映。「『絶対』日本は負けない、『絶対』神風が吹く。みんなウソだった。もう『絶対』は使わない」。戦争体験を聞かれるたびに語ってきた思いを、改めて聞くことができる。版画やペン画、ボート競技に没頭した学生時代の練習日誌の展示もあり、半藤さんの別の面にも触れることができる。 昭和館の学芸課長の林美和さんは、半藤さんを中心に昭和史研究家が集う「歴史探偵団」の場に参加したことがある。「実証的に歴史に向き合った半藤さんは、ユーモアあふれる人だった。緻密だけれど読みやすく、面白い著作が多い。半藤さんをよく知らない世代の人も、とっつきにくいと思っている人も、展示見学をきっかけに、本を読んでみようと思ってくれたらうれしい」と話している。 月曜休館、午前10時~午後5時半(入館は午後5時まで)。問い合わせは同館03・3222・2577。
「歴史探偵」半藤一利さんの直筆資料展示 初公開の創作メモなど
