TVマン見た「マジで秘境」チベット仏教の村(中編) 歴史に刻まれた「チベット遺産」と異文化の影響

TVマン見た「マジで秘境」チベット仏教の村(中編) 歴史に刻まれた「チベット遺産」と異文化の影響

人けのない村で必死の宿探し。ようやく出会った村人から出た言葉は……(写真:筆者撮影) この記事の画像を見る(17枚) 世界36カ国を約5年間放浪した体験記『 花嫁を探しに、世界一周の旅に出た 』が話題を呼んでいるTVディレクター・後藤隆一郎氏。 その後藤氏が旅の途中で訪れた、ヒマラヤ山脈にある辺境の地、チベット仏教の聖地「スピティバレー」で出会った「標高4000mに暮らす人々」の実態をお届けします。 2匹のロバと農業用トラック バスの停留所は広い敷地にぽつんと存在していた。バス停の看板すらない。 オフラインマップで確認すると、そこには「ヘリポート」と表記されていた。有事の際に車での移動は遅すぎるため、軍隊や政府の重要人物がこの奥地までヘリで飛んでくるための場所なのだろう。 だが、その広々とした敷地に停まっているのは、ヘリではなく、水色とオレンジに塗装された大型の農業用トラック1台だけだった。 その前には、2匹のロバがのんびりと寝そべっていて、人間の存在などまるで気にしていない様子だ。 トラックの後ろには「BLOW HORN」という文字が書かれていた。その言葉は直訳すると「角笛を鳴らせ」となるが、スラングとしては「自画自賛」のような意味合いも持っている。 トラック運転手らしいセンスのいい言葉選びだ。BLOWとHORNの間には孔雀の絵が描かれており、この辺りに住む人々と野生動物との距離の近さを象徴しているように思えた。 ナコのバス停に降り立ったのは、俺とカナさんだけだった。若いイスラエル人の姿はどこにも見当たらない。 途中のバス停で降りてしまったのだろう。 こんな辺境の地を旅する数少ないバックパッカー仲間として、せめて一言くらい挨拶してくれればいいのに、と、少しばかり寂しく感じた。きっと、本当はシャイな奴なのだろう。 美しい景色は高地に生きる人々の営み 俺たちは遠くに広がる雄大な岩山の斜面に位置するナコの村を目指して、一本のアスファルト道を歩き始めた。 村の背後にはレオ・プルギル山がそびえ立っていて、その山を越えれば、そこはもうチベット自治区だ。歩みを進めると、緑の美しい段々畑が目に入ってきた。 岩山の斜面にわずかばかりの平地を見つけ、村の人々はそこで辛うじて農業を営んでいる。広大で無機質な岩山の茶色と、人間の生活の営みが作り出した小さな緑色のコントラストがひときわ目を引く。 過酷な自然環境の中で「生きる」ことへの強い意志が、その景色に一層の輝きを与えているようだった。 山の斜面に位置するナコ村(写真:筆者撮影) 村に到着した頃には、すでに夕方の4時を過ぎていた。陽が落ちる前に、今夜の宿を見つけなければならない。 これまでの旅の経験から言って、田舎に行けば行くほど、保守的な人々が多い傾向があった。こんな辺境の村で、異国の訪問者を迎えてくれる場所などあるのだろうか。不安が胸をよぎる。 しかし、「この行き当たりばったり感が旅の醍醐味なんだ」と自分に言い聞かせながら、村の中へと足を踏み入れた。 ナコ村は、スピティの始まりの村であるカザや、ピンバレー国立公園へのトレッキング客がよく訪れるムド村に比べて、圧倒的に閑散としていた。 人がまったく見当たらない閑散とした村 すでに5分近く散策しているが、すれ違うのはロバや牛などの動物ばかりで、村人の姿は一人も見当たらない。まるで、すべての人間がこの村から消えてしまったかのようだ。 閑散としているナコ村(写真:筆者撮影) チベット仏教の旗タルチョとともに石造りの民家や壁が立ち並ぶ(写真:筆者撮影) 村で放し飼いにされているロバ(写真:筆者撮影) 長細い石が多いのが印象的で、狭い石畳の脇には城の石垣のように石が積み上げられて壁を造っている。 民家の造りは土と石を基礎にした長方形で、屋根には茅葺が積まれていた。村のあちこちにチベット仏教の象徴である赤、白、緑、黄、青の5色の旗タルチョが掲げられ、この地に信仰が深く根付いていることが一目でわかる。 しかし、家だけでなく、タルチョさえも老朽化していて、村全体から古ぼけた印象を受けた。 しばらくすると、急に雲が出てきて、どんよりと暗くなってきた。静かすぎる村に物悲しい雰囲気が漂う。まるでホラー映画「八つ墓村」のように、誰かが窓からよそ者をじっと観察しているのではないかとさえ思えた。 雲行きが怪しくなってきた(写真:筆者撮影) 「ごっつさん、宿らしきものがないですね」 カナさんも少し不安を感じているのが、声の響きからわかった。 「まぁ、なんとかなるっしょ」 不安を悟られないよう、明るく振る舞い、自分自身を鼓舞した。 それからしばらく村の中を歩くと、4歳くらいの2人組の女の子を見かけた。1人の子は茶色っぽい金髪で、目の色が茶色く、肌全体の色素が薄い。スピティに来てから初めて見る顔つきだ。もう1人は浅黒い肌に真っ黒の目をしている。 ナコ村で初めて出会った可愛い村人(写真:筆者撮影) 「こんにちは、この村の子?」 「人けのない村」で必死の宿探し 茶色っぽい金髪の子が着ている水色のトレーナーはかなり古びていて、少し薄汚れている。 「ねー、お金ちょうだい」 『花嫁を探しに、世界一周の旅に出た(わたしの旅ブックス)』(産業編集センター)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします 少しびっくりした。インドの都市部にいたときは、子どもたちからよくお金をせびられたのだが、スピティに来てからは一度もそんなことはなかった。ナコ全体が経済的に苦しい状況にあるのかもしれない。 […]

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