江戸の妖怪絵師——鳥山石燕と『画図百鬼夜行』の世界

江戸時代には、多くの絵師が活躍し、美人画・浮世絵・武者絵など、さまざまなジャンルが発展した。
その中でも、**妖怪画の第一人者として名を馳せたのが「鳥山石燕(とりやま せきえん)」**である。

彼は、妖怪の姿をビジュアル化し、日本の怪談文化に大きな影響を与えた絵師であり、
その代表作**『画図百鬼夜行(がずひゃっきやこう)』**は、後世の妖怪研究や創作作品にも多大な影響を与えている。

本記事では、鳥山石燕の生涯や代表作、彼の妖怪画が日本文化に与えた影響について詳しく解説する。


目次

① 鳥山石燕とは?——妖怪画の巨匠

**鳥山石燕(とりやま せきえん、1712年〜1788年)**は、江戸時代中期に活躍した絵師である。
彼は、妖怪画の第一人者として知られ、数多くの妖怪をビジュアル化した

本名:鳥山 咨明(とりやま よしあき)
狩野派に学び、武者絵や風俗画も手がけた
妖怪を体系的に描いた画集を刊行し、日本の怪談文化に影響を与えた

彼の描いた妖怪は、単なる伝説の挿絵ではなく、
独自の創作やアレンジが加えられたアート作品としても高く評価されている。


② 鳥山石燕の代表作——妖怪画集の誕生

鳥山石燕は、妖怪を体系的に整理し、視覚的に表現した最初の絵師と言われている。
彼の妖怪画集は、日本の妖怪イメージを形成し、後の時代にも多大な影響を与えた。

1. 『画図百鬼夜行』——妖怪画の決定版

**『画図百鬼夜行(がずひゃっきやこう)』**は、1776年に刊行された鳥山石燕の代表作である。

日本各地の妖怪をイラストと解説付きで紹介
従来の口承文化を視覚化し、妖怪のイメージを決定づけた
水木しげるや京極夏彦といった現代の作家・漫画家にも影響を与えた

この作品には、「天狗」「鬼女」「河童」などの有名な妖怪が収められており、
後世の妖怪図鑑やアニメ、映画に登場する妖怪の原型となった。


2. 『百鬼図』『今昔百鬼拾遺』——妖怪の進化

鳥山石燕は、『画図百鬼夜行』の成功を受け、さらに続編を制作した。

『百鬼図(ひゃっきず)』(1779年)

  • 『画図百鬼夜行』の続編で、さらに多くの妖怪を描いた
  • より幻想的で迫力のある妖怪が登場

『今昔百鬼拾遺(こんじゃくひゃっきしゅうい)』(1781年)

  • 妖怪のデザインを進化させ、創作要素が加わった
  • 「ろくろ首」や「のっぺらぼう」といった新しい妖怪も登場

これらの作品は、単なる怪談の挿絵ではなく、
江戸時代の人々の妖怪観を形成し、日本の妖怪文化の原点となった。


③ 鳥山石燕の影響——江戸文化と妖怪の可視化

鳥山石燕の妖怪画は、江戸時代の文化と密接に結びついている。

1. 江戸の町人文化と妖怪の流行

江戸時代中期には、怪談や妖怪をテーマにした娯楽が人気を集めていた

黄表紙(きびょうし)や読本(よみほん)に妖怪が登場
歌舞伎や浄瑠璃にも怪談ものが増える
夏の風物詩として、怪談話が広まる

鳥山石燕の作品は、こうした江戸の町人文化の流行に乗り、
妖怪を「目で見て楽しむ」新たなエンターテインメント
を生み出した。


2. 蔦屋重三郎との関係——浮世絵と妖怪文化の交差

蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)は、黄表紙や洒落本の出版で知られる版元(出版社)である。
彼は、鳥山石燕と同時代を生き、浮世絵や怪談本の出版にも関与していた。

鳥山石燕の妖怪画は、蔦屋の刊行する本にも影響を与えた可能性がある
浮世絵に妖怪が登場するようになり、歌川国芳らの作品に受け継がれた

もし鳥山石燕の妖怪画がなければ、後の浮世絵に見られる妖怪表現も違ったものになっていたかもしれない


3. 平賀源内との関係——科学と妖怪の融合

平賀源内(ひらが げんない)は、江戸時代の発明家・学者であり、妖怪文化とも関わりが深い。
彼は、科学的な視点から「妖怪とは何か」を考察し、「電気」を使った妖怪現象の再現にも挑戦していた。

平賀源内は、エレキテル(静電気発生装置)を妖怪現象と関連づけた
鳥山石燕の妖怪画と、平賀源内の科学的視点が交差する場面もあった

このように、江戸時代には、妖怪を科学的に解明しようとする動きと、
鳥山石燕のように「視覚的に表現する」動きが共存していた
のである。


④ まとめ——鳥山石燕が生み出した日本の妖怪文化

鳥山石燕は、妖怪画の第一人者として、日本の妖怪イメージを確立した
『画図百鬼夜行』は、日本初の体系的な妖怪図鑑であり、後世に多大な影響を与えた
江戸の町人文化と結びつき、怪談や妖怪を視覚的に楽しむ文化を生み出した
蔦屋重三郎や平賀源内とも関わり、江戸の知識人と妖怪文化の交差点となった

鳥山石燕の妖怪画がなければ、今日の日本における妖怪のイメージはまったく異なるものになっていただろう。
『ゲゲゲの鬼太郎』や『妖怪ウォッチ』といった現代の妖怪コンテンツにも、
彼の作品の影響が色濃く残っている。

彼が描いた妖怪たちは、江戸の夜を賑わせただけでなく、
時を超え、現代の日本文化にも生き続けているのだ——。

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