歴史的魅力ある街が観光振興で失敗する共通原因 失敗した事例はどれも似たようなものが多い

歴史的魅力ある街が観光振興で失敗する共通原因 失敗した事例はどれも似たようなものが多い

地域の歴史文化を利用した「まちおこし」の失敗パターンとは(写真:Graphs/PIXTA) ある地域を観光産業で元気にしたいと考えたとき、その地域が歩んできた歴史は大きな武器になるでしょう。しかし、歴史に基づいて地域をブランディングするというのは、そう容易なことではありません。まちおこしがうまくいかない事例はどれもよく似た失敗をしているのです。本稿では、歴史文化を活用したまちおこしの失敗パターンを2つ紹介します。 ※本稿は久保健治氏の新著『 ヒストリカル・ブランディング 脱コモディティ化の地域ブランド論 』から一部抜粋・再構成したものです。 歴史文化による地域振興は失敗することもある 歴史文化は観光地の競争力を高めるものだといえる。しかし、読者の中には次のように思う人も少なくないだろう。 「歴史文化が差別化になるという理論はわかったが、現実には実践しているのに失敗としか思えない事例もある。理論と現場は違う」「いままで、歴史文化振興を頑張ってきたが結果が出ていない」等々。 歴史文化を活用することの利点はあるが、歴史を使えば100%成功するわけではない。そして、そのような「魔法」は地方創生や観光においては存在しない。当然成功もすれば、失敗もする。 トルストイは「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」と述べているが、少なくともヒストリカル・ブランディングにおいては、「成功した事例は、それぞれに成功しているが、失敗した事例はどれも似たようなもの」といったほうがいいようなことが多い。 ここではよくある失敗事例を紹介したい。 よくある事例①歴史文化をアピールしたが… 地方創生を目的とした部署に配属となったAさん。Aさんは、地域の新しい魅力を発信しようと考えた。上司からは地域の歴史文化を活用するようにとの指示を受けた。いろいろと調べた結果、一般的には知られていないが、興味深い歴史的事象を発見した。 念のため周囲の人にも聞いてみたが、皆も「へー、それは知らなかった。そんな歴史があったんだ。面白いね」という反応。そこで、Aさんはみんなに知ってもらえれば興味を持ってくれると思い、キャンペーンを実施することにした。 地元紙でも「知られざる歴史」として掲載はされたものの、観光客への誘致などにはなかなかつながらない。地元企業と連携して地元の木で作った特産品の酒升といったオリジナルグッズを開発したものの、盛り上がりにかけてしまっている。そのため、次の一手が見つけられず、協力してくれていたボランティアの人たちも徐々に減ってきてしまっている。 この事例は、いくつかの地域で私が聞いた内容を基にして創り上げた架空の事例である。Aさんのやり方はいったい何が悪かったのだろうか。その理由について理論を基にして分析してみよう。 まずこの場合、Aさんは興味深い「歴史的事象」を見つけたので、これを知ってもらえれば地域の新しい魅力につながるだろうと考えた。 この発想はよいのだが、観光という視点でいうと、それだけではもの足りない。なぜかというと、ここでAさんが認知拡大させているのは、単に知識だけだからだ。 「知識だけ」では訪問にはつながりにくい 新しい知識はもちろん知的満足感をもたらす。それによって、友人のように「面白いね」という感想にもなるだろう。しかしながら、「知識だけ」となると離れていても獲得できるし、知ってしまえば終わってしまうのだ。そうなると、訪問動機としては弱い。 また、オリジナルグッズを作ったという記述があるが、ここでは単に地域の特産品である酒升に名前を刻印したくらいのものになってしまっている。歴史的事象と酒升の関連性も存在していない。 坂本龍馬など、すでに全国的な知名度があり、一定のファンがついているような歴史的人物であれば問題はないかもしれない。だが、最近発信したばかりでは難しいだろう。そもそも、この歴史的事象に興味関心を持つ人が酒升を欲しいと思うのかどうかもわからない。 これはかなり極端な例にしているが、実際には似たような事例は多いかと思う。単独で集客力があるブランドに育てていくためには、時間がかかる。一朝一夕にはいかないという前提はあるが、この事例はこの実践方法で時間をかけてもうまくいかない可能性が高い。 まず、Aさんは歴史的事象を見つけたというが、歴史は過去のことであるから、それが発生してからだいぶ時間が経過している。つまり、もし今回の歴史的事象が認知拡大させるだけで集客できるのであれば、すでになっている可能性が高いのだ。ツーリズム理論でいうと、流通最大化による認知拡大だけではうまくいかない状況だといえる。 Aさんの事例は、需要創出をしなければいけない状況で、単なる認知拡大というプロモーション施策を実施してしまったので失敗したといえる。やり方次第では、この歴史的事象によって需要創出ができるかもしれないのに、方法論で間違ってしまったのだ。 Bさんが住む地域では、歴史的景観が保存された状態で残っていたのだが、今まではそこまで観光振興には力を入れてこなかった。だが、少子高齢化の波は確実に迫ってきている。そのため、まちおこしとして観光振興に本格的に取り組むことになった。 いくつかの施設もリノベーションなどの整備を行い、プロモーションを地道に続けた結果、以前と比較すると多くの人が観光でまちに訪れるようになり、まちにも活気が蘇ったと皆で喜んでいた。 しかしながら、最初の興奮が冷めてみると、人はたくさん来るのだが、各商店の売り上げなどはそれほど上向きにはなっていなかった。団体バスもたくさん入ってくるし、人が来ているのは間違いない。ボランティアガイドの満足度も高いのだが……。 この状況を打開するために、芸能人を招いたイベント開催などにも力を入れてきたが、イベントがなければ結局元に戻ってしまう。まちのみんなはイベント疲れもあり、観光に対して批判的な声も上がり始めてしまった。 この事例は、全国の歴史的景観エリアで発生している。JTB総合研究所が2019年5月に実施した「『歴史的な建築物がある集落や町並み(重要伝統的建造物群保存地区)』での観光に関する調査」がある。これによると、歴史的な建築物がある集落や町並みの訪問経験は、各年代でバラツキはあるにしても、訪問を目的に旅行した経験が全体平均では約40%、「旅行したついでに訪れた」を含めると全世代で60%以上は訪問している。 この数字だけ見ると、年代による違いはあるとはいえ、やはり歴史的景観が観光において人をひきつける力を十分持っているのは間違いない。 問題は、来訪した観光客の行動である。次のグラフを見てほしい。 滞在時間は概ね4時間以内に収まっている ※外部配信先ではグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください はっきりとわかるのは滞在時間の短さ。ほぼすべての年代で70%くらいが4時間以内の滞在となっている。宿泊に関してのレポートを見てみても全体の約68%が日帰り訪問で、約14%が近隣の観光地や温泉地と地区外に宿泊している。当該地区に宿泊した人は全体の約19%。当たり前のことだが、観光客の滞在時間と消費金額には強い相関がある。 つまり、Bさんの事例は歴史的景観で集客することには成功したが、消費につなげる展開で失敗したので、観光目的としては不満が残る結果になったということだ。何を当たり前のことを言っているんだ、と思う人もいるかもしれない。しかし、これは歴史文化の大きな特質の1つである。 歴史的景観の中で楽しめる消費活動が必要 歴史文化はコア・リソースであり、集客力を持っている。歴史的景観への訪問経験もそれを裏付けている。だが、歴史的景観だけでは見て終わってしまうことが多いので直接消費につながらない。 歴史的景観の中で楽しめる消費活動が必要なのだ。Bさんの事例でいうならば、訪問動機となるものと消費活動になるものを明確に分けて考えていけなかったことが失敗の原因だったといえる。 さらに、この状況を打開するためにイベントを開催したとあるが、内容は芸能人を呼ぶといった集客を目的にしたもので終わっている。地域の観光経験となっているコア・リソースを強化するようなイベントでなければ、それは単なる一過性のイベントで終わってしまう。 これは典型的な一過性イベントで人を集める手法であり、この方法はある種のドーピングのようなもので、やり続けなければ効果が切れてしまう。そのため、次から次へとイベントをやり続ける必要が出るのだが、多くの地域では途中でイベント財源となっていた補助金が打ち切られてしまったり、過度のボランティア運営によるイベント疲れが出てきたりして、終わってしまう事例は多い。 コア・リソースの価値を見失わないように Bさんの失敗事例は、観光客を呼び込むためのコア・リソースと、呼び込んだ後にどうやって楽しんでもらうのかを組み合わせる設計が甘かったことから起きたものだ。これらは目的が違うので、それぞれ検討していく必要がある。 『ヒストリカル・ブランディング 脱コモディティ化の地域ブランド論』(角川新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします こういう時に気を付けなくてはいけないのは、「結局歴史的景観では儲からない」という極端な意見が出てきて、それに対して確かにその通りだという声が上がっていくことだ。すると、歴史的景観とはそぐわないが、消費活動につながりそうなわかりやすいものを整備しようとしてしまう。 この方法は短期的にはお金が入ってくるかもしれないが、コア・リソースの魅力を弱めてしまうため、長期的にはマイナスとなる。似たような施設が隣接地域に建設されたら、それで終わりだ。 そもそも地域に観光客を呼び込むことが何よりも難しいので、このケースでは歴史はしっかりと魅力的なものとして役割を果たしている。目の前の「数字」に追われて自分たちの魅力の源泉を自ら破壊することにならないよう、注意する必要があるだろう。 […]

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