『どうする家康』歴史を知る醍醐味とは? 時代考証・小和田哲男に聞く、古沢脚本の面白さ

これまでの歴史ドラマで描かれてこなかった新たな徳川家康像を描いている『どうする家康』(NHK総合)。古沢良太の今までにないアプローチで、戦国時代の武将たちの新たな魅力がここまで引き出されている。そんな古沢の脚本作りにおいても、重要な役割を担っているのが「時代考証」。数多くの作品で時代考証を手掛けてきた小和田哲男氏に話を聞いた。(編集部) 平和を実現した男。それが徳川家康の最大の魅力 ――時代考証とはどのような役割にあるのでしょうか? 小和田哲男(以下、小和田):基本的にはチーフ・プロデューサーと脚本家の古沢(良太)さんと私とで、どういった人物像として描くのかの大まかな相談をした上で、古沢さんが執筆者された台本に史実として間違いがないかを目を光らせる、チェックするのが主な仕事です。原作があるとかなり縛られてしまうので、時代考証が大変な時があるんですけど、今回は原作なしで古沢さんがオリジナルで執筆されているので、その点は比較的やりやすいです。 ――時代考証として大河ドラマに関わる思いを聞かせてください。 小和田:1996年の『秀吉』で初めて依頼をいただいて、2020年の『麒麟がくる』を含め、今回の『どうする家康』で8作品の時代考証をやってきています。私が考えるに、NHKの大河ドラマそのものが、今の日本人の歴史認識、歴史意識を形作っている、大きな作品だという風に思っています。大学で教鞭を執っていた頃に、学生に「なんで日本史を選んだの?」って聞いたら、「高校の日本史が面白かった」と言う人と同じくらいの数で「小学生の頃から大河ドラマを観て歴史に興味を持った」という学生がいっぱいいたものですから、これは時代考証とはいえ手をぬくことはできないという気は持ちました。 ――古沢さんが描く『どうする家康』について、どのようなところが面白いと感じられましたか? 小和田:タイトルそのものですね。『どうする家康』というタイトルで、これは面白い作品だと感じました。大河で家康が扱われた作品は何本もありますけど、どちらかというと「成功者・家康」というか、完成した家康が描かれた印象があるので、むしろ紆余曲折を経ながら、どっちにしようか迷いながら決断をして、最終的には戦国の覇者になる、そういった道筋が描かれたら今までの家康とは違うなという印象を持ちました。 ――小和田さんが思う家康の魅力を教えてください。 小和田:岐阜関ケ原古戦場記念館の館長も仰せつかっているんですが、関ヶ原の戦いを研究すれば研究するほど、家康は戦国乱世に終止符を打った男という、そんなイメージがあります。人によっては戦国100年、150年と言いますけれど、その長い間続いた戦国乱世に、これ以後は戦いはなしにしようという、その戦いが関ヶ原の戦いだった。そういった意味では戦国乱世に終止符を打った、徳川260年の平和を実現した男。それが最大の魅力だと思います。 ――『どうする家康』では松本潤さんが演じる、これまでにない家康が描かれていることについてはどう感じられていますか? 小和田:私どもは歴史の結果を知っていますから、どうしても今までの家康の描かれ方は正々堂々と、天下を取っていったイメージで描かれてきたわけですけど、家康のイメージというのは時代によって随分と違ってきまして。例えば、江戸時代だと神君・家康公、東照大権現という神になったので、誰も家康のことは非難できない、家康がやったことは全て正しいという描かれ方がされてきたわけです。これが幕末維新になって、幕府を倒した薩長史観という言い方をされていきます。薩摩回長州の歴史観からは自分たちが倒した幕府を作った家康が如何にずる賢く、近代になっては「タヌキ親父」なんて言われるイメージが作られてきました。そういうものから外れた生の家康を先入観なしに古沢さんが描いてくれますので、その辺に期待をしているところですね。 過去作品とは大きく異なる有村架純演じる瀬名 ――有村架純さんが演じる瀬名は、過去の大河作品とはまた違ったキャラクターで描かれていきます。 小和田:古沢さんが執筆された脚本を読んだ時に「え?」と思ったのは、家康と瀬名が相思相愛の関係で仲良くなっていった流れになっていたことでした。当時の武士階級は、大体は親が決めた結婚で、本人同士の恋愛結婚はほとんどないので私も悩んだんですけれど、ただ考えてみたら全く恋愛結婚がないわけじゃないんですよね。例えば、秀吉が正室のおね(高台院)と結婚するのは親が決めたことではなくて、本人同士の恋愛ですので、それもありかなってことでGOサインを出しました。古沢さんの作りが面白いねってことでいいなと思いました。瀬名は築山殿に名前を変え、世間ではいわゆる悪女みたいなイメージで今までのドラマでは語られてきましたけど、もしかしたら今までの通説とは違った2人の関係が描かれるかなというのは楽しみにしています。 ――『どうする家康』では女性のたくましさも描かれていくのでしょうか? 小和田:今までは戦国史というとどうしても男の世界みたいな感じで、合戦は男を中心にやっているのでそうなんですが……瀬名にしても於大(松嶋菜々子)にしても側室の何人かの女性たちが出てきますので、そういった女性たちによって家康が支えられていたというのは、銃後の守りみたいな言い方をしちゃいますけど、当時の女性が男に意見を言っている場面がありますので、そういった女性の果たした役割が戦国ホームドラマ的に描かればいいなとは思います。 ――岡田准一さんが演じる織田信長は、ワイルドで家康に対してサディスティックな面を持っています。 小和田:『麒麟がくる』の時の信長(染谷将太)はどちらかと言えばおどおどとしていて、あまり自信がないような信長が描かれていましたけど、それも信長なんですよね。ルイス・フロイスなんかが描写してますけども、ある意味で今までの通説に近い信長、家臣の言うことは聞かないとか、どちらかというと独断専行的な厳しい信長像も実際はあるわけで。今回の岡田准一さんが演じる信長は従来の通説に近い厳しい、部下に対しては尊大な信長像が描かれるので、当然それは家康との関係、これが『どうする家康』の一つのコンセプトになると思います。家康と信長が結ぶ清須同盟は決して対等ではない同盟関係で、私が思うに主従関係に近い同盟なんです。そういったところで岡田准一さんが演じる信長は家康に対して相手を下に見ている、そういう描かれ方になっているので、それも実際の家康と信長の関係に近いだろうと言えます。 ――家康は信長、秀吉(ムロツヨシ)に加えて、武田信玄(阿部寛)とも関わっていくこととなります。 小和田:家康は、歴史的な結果としては信長、秀吉が果たせなかった天下統一を成し遂げた成功者という形で描かれることになるんですけど、戦国最強と言われた武田信玄を相手にしては完敗ですからね。だけどむしろ負けたことが家康にとってはプラスになったという描かれ方にもなっていくと思うので、そういった歴史の見方――なんとなく人間は失敗もなく人生がうまくいけばいいと思っちゃうんだけど、どこかで挫折を経験してそれを乗り越えることによってひと回りも大きくなっていった家康を我が身にも当てはめることで、人間の生き方のモデル、参考になるんじゃないかと思います。 ――大河ドラマを観ることの面白さ、醍醐味はどのようなところにあると思いますか? 小和田:時代劇は年配、特に男性の視聴者が多いイメージがありますが、今回は松本潤さん、有村架純さんをはじめ、多彩なキャストも登場しますし、若い人にも観てもらえるようなドラマになればと思います。教科書で習うような歴史は、あくまで政治史中心であって、普通の人々の生活がどうだったのかはなかなか見えてこない。大河ドラマにしても、映画にしてもそうですけど、むしろ付随的なものが描かれることによって、視覚的に戦国時代というのはこういう時代だったんだ、歴史はこういうふうに動いていったんだ、私たちの先祖はこういうふうに歴史を作ってきてくれたんだということが見えてくるのかなと思っています。 ■放送情報 『どうする家康』 NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送 BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送 主演:松本潤 脚本:古沢良太 制作統括:磯智明 演出統括:加藤拓 音楽:稲本響 写真提供=NHK

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