『ブギウギ』『らんまん』と“歴史もの”へと移りゆく朝ドラ ドラマ評論家座談会【後編】

『ブギウギ』『らんまん』と“歴史もの”へと移りゆく朝ドラ ドラマ評論家座談会【後編】

『ブギウギ』写真提供=NHK  テレビドラマを語る上で、毎年必ず外せないのがNHK連続テレビ小説こと朝ドラと、NHK大河ドラマ。朝ドラと大河ドラマへの出演を目標にする役者も多く、視聴が“習慣”となっている視聴者も多数いるだろう。成馬零一、木俣冬、藤原奈緒の3名による座談会の後編では、朝ドラ『舞いあがれ!』『らんまん』『 ブギウギ 』、大河ドラマ『 どうする家康 』の話を中心に2023年のドラマシーンを振り返ってもらった。 【写真】「朝ドラ史に語り継がれるベスト夫婦」神木隆之介×浜辺美波、最終回の美しい抱擁 朝ドラも史実を踏まえた上で作らないといけない時代に ーー藤原さんは『らんまん』をベスト作品に挙げていましたが、みなさんは2023年の朝ドラはいかがでしたか? 藤原奈緒(以下、藤原):『らんまん』はただ史実をなぞっているというだけでなく、坂本龍馬が登場するなど、時代背景を加味した上での大胆な構成に加え、家と個人、さらには夫婦関係の葛藤といった、現代に通じる話が多層的に絡んでくるのが面白かったです。あと、全国どこに住んでいても身近な存在である植物が物語全体を彩っていることで、視聴者もより親近感をもってドラマを観ることができたのではないかなと思います。 成馬零一(以下、成馬):『らんまん』は近年の朝ドラの中では完成度が一番高かったと思います。男性主人公なので、一見すると変化球に見えるのですが、槙野万太郎を演じた神木隆之介と寿恵子を演じた浜辺美波の夫婦が魅力的だったので万人に愛される作品になったなと。逆に『舞いあがれ!』は作品のバランスはあまり良くないのですが、自分が思春期を過ごした90年代以降の平成から令和にかけての物語だったので、自分の世代の物語だと思って観ていました。『だが、情熱はある』(日本テレビ系)や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)もそうですけど、現在40代後半くらいの人が関わっている青春ドラマが結果的に「平成という時代」の総括になっているケースが増えてるんですよね。『舞いあがれ!』も平成という近過去を振り返る青春ドラマで、その背景にバブル崩壊やリーマンショックといった不況の荒波が存在して、それが戦争体験のように描かれていたのは興味深く観ていました。 藤原:『舞いあがれ!』は、現代の若者の苦しみというか、優しさゆえに「なかなか空を飛べない」 感じ、飛び立てないという葛藤が描かれていたのが面白かったです。『ブギウギ』の話で言えば、私、『らんまん』の長屋とか、『ブギウギ』のはな湯の空気感がとても好きで。『ブギウギ』の初回で、過去の記憶がないゴンベエ(宇野祥平)がただそこにいて受け入れられているっていうだけで、なんでか涙ぐんでしまうというか。『ブギウギ』はゴンベエやアホのおっちゃん(岡部たかし)、おでん屋のおっちゃん・伝蔵(坂田聡)とか、個人的にグッとくるキャラクターが多いなあと感じます。あと例外もありますが、毎週、スズ子(趣里)が歌う場面が入る構成が面白くて、感情が揺れ動く頂点としての歌唱シーンといいますか、ミュージカルを観ているような気分で、こちらの心を躍らせながら、楽しみに観ているところがあります。 木俣:『らんまん』は浜辺美波さんが演じた寿恵子さんの描き方がすごく良かった。『南総里見八犬伝』が好きで、私も登場人物のように冒険したいんだっていう想いが、単純にかわいくて共感できて、応援したくなりました。浜辺さんが可憐に演じていたのが印象的です。『舞いあがれ!』までは、コロナ禍で制作体制が揺れていて本来の朝ドラの力を出しきれていないところがあったのが、『らんまん』でいつもの朝ドラがやっと戻ってきたっていう感じがしました。『ブギウギ』も豪華なステージ映像を撮っているところに作り手の余裕が感じられます。主題歌が流れるオープニングも本当に気持ちが乗るので、『あまちゃん』以来の元気になれる朝ドラですよね。 成馬:今の朝ドラって“歴史もの”としての要素が強くなっていて、近過去を舞台にしていても、ディテールがしっかりしてますよね。最近、2001年度前期の朝ドラ『ちゅらさん』を見返したのですが、時代背景が曖昧だったことが逆に新鮮で。2000年代の朝ドラって漠然とした現代が舞台の作品が多くて、そのゆるさが面白かったのですが、現在だと視聴者の目が厳しいので、色々言われるんだろうなぁと思いました。 木俣:一時期の朝ドラはモデルにしている人がいてもモデルと言わずに、「モチーフ」とか「ヒント」といった曖昧な言い方をしていたのですが、 最近は「モデルにしました」とはっきり言うように変わったんですよね。おそらく朝ドラも史実を踏まえた上で作らないといけない時代になっているのだと思います。 “時代劇”が求められている? ーー大河ドラマ『 どうする家康 』はいかがでしたか? 木俣:『どうする家康』はノベライズの仕事をしていたので、古沢良太さんの脚本を一足先に読ませていただいていたのですが、どういうふうに映像化されるのか毎週楽しみでした。 藤原:女性の描き方が面白いなと思って観ていました。瀬名(有村架純)も茶々(北川景子)も悪女として史実には記録されていますが、歴史には残っていないけど、「こういう一面があったのではないか?」という描き方になっていて、どこか『大奥』にも通じますよね。 木俣:確かに女性の存在が大きかったですよね。最終回の茶々の生き様は話題になりました。 成馬:夫を支えた縁の下の力持ち的なポジションじゃなくて、ちゃんと自分の仕事をしていた。特に瀬名は家康(松本潤)の精神的支柱になっていて、大河ドラマにおける女性の描き方としては新しかったと思います。 藤原:大河ドラマではないのですが、宮藤官九郎さんが脚本を書かれたNHK正月時代劇の『いちげき』も良かったです。去年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に続き、 北野武 監督の映画『首』と『いちげき』は、個人的にすごく刺さるものがありました。 成馬:『いちげき』はよかったですね。幕末が舞台だけど、農民出身の暗殺部隊の時代劇で搾取される側から歴史を描いている。大河ドラマって、どうしても権力者の側から描いた物語視点になっちゃうので『いちげき』のような末端の人間の視点から歴史を描くことは大事だと思います。漫画が原作ですが、宮藤さんらしい時代劇になっていたと思います。 木俣:『大奥』もそうでしたが、大河ドラマ以外の時代劇にも良作が多かったですね。 成馬:男女逆転じゃない史実通りの『大奥』もフジテレビでまたドラマ化されますし、新しい時代劇を作ろうという流れが生まれているのかもしれないですね。 2023年はドラマシーンの分岐点に? ーー最後に2023年のドラマシーン全体に対する総評を教えてください。 成馬:2010年代後半は地上波のプライムタイムのドラマよりも配信のドラマの方が先鋭的かつ予算のかかった作品が多くて、いずれ地上波のドラマはNHKと深夜枠だけになっていくのではないかと思っていたんです。でも、今年は民放のドラマが盛り返してきて、生方美久を筆頭に新人を積極的に起用するようになってきている。逆にNetflixやディズニープラスといった配信ドラマは、坂元裕二や増本淳のような地上波のドラマを作っていた脚本家やプロデューサーを呼んできて豪華な作品を作ろうとしているけど、時間と予算をかけて丁寧に作っている分だけ、ドラマならではの時代と共振したライブ感に欠けるところがあって。配信作品のほうが若干保守的に見えるという逆転現象が起こりはじめている。 木俣:コロナ禍で一瞬休んだことで肩の力が抜けて、これまでの体制を整え直したのかもしれないですね。 成馬:あと、これも『silent』以降の流れだと思うのですが、ドラマの人気を測る指標が視聴率からTVerの再生回数に移ったことを実感した1年でした。ドラマ関係のニュースを読んでいると、TVerの再生回数ランキングの順位が書かれていることが増えていて、『 あなたがしてくれなくても 』(フジテレビ系)のようにTVerで話題になって逆輸入的に本放送の視聴率が上がるケースも増えている。面白いのはSNSで考察や感想が多く呟かれている作品とTVerの再生回数が上位にある作品って必ずしも一致していないことで。『あなたがしてくれなくても』みたいな作品はSNSで話題にしにくいので、一人でこっそり観ている人が多かった。だからSNSで共有するのとは別の試聴形態が出てきているのかなぁと思いました。 木俣:成馬さんは民放が新人作家を積極的に登用しているとおっしゃるように、先日、TBS の 福澤克雄 さんに取材したら、若い作家を育てる義務があるとおっしゃってました。その一方で、「僕はいまはもう、大作家が全話書く時代ではないと思っていて。共同制作の良さは、集まった作家の数だけ人生経験があり、それぞれのキャラクターに個性とリアリティーが出ることだと思っています。ただ、それも、リーダーのビジョンがしっかりしていないと成立しない」という発言も印象に残っています。若い作家がほしいけれど、その作家、ひとりのセンスや問題意識では、多くの人が観るドラマは難しいと作り手は感じている。大衆向けの集合知的な企画色の強いエンタメと、作家性の強い人による、パイは小さくても強烈に誰かの心に響くものと二分していくのかなと。ただ、後者の場合、現代の日常という狭い世界になるので、内向きになっていくばかりという心配もあります。2024年は、スケールの大きなものが書ける作家の誕生にも期待したいし、ライターズルーム的なやり方で、海外に肩を並べられる作品が誕生することにも期待したいです。 藤原:成馬さん、木俣さんのお話が、今片っ端からメモしているぐらい勉強になることばかりで、私が語れるドラマ展望は特にないのですが(笑)。配信ドラマ含め、ドラマ作品がどんどん増えていく中で、ドラマの個性もまた多様化してきたなと思っていて。全ての世代、性別問わず皆が皆「これが傑作!」と口を揃えて言いたくなる作品がなくて、誰かにとっての傑作が、誰かにとっては全く刺さらないという現象は、当然と言えば当然なのですが、これまで以上にそのことを感じる部分が多かったのが2023年だったように思います。だからこそ面白いといいますか。世の中のトレンドに追われるだけではなく、私含めて、視聴者それぞれが、自分自身の感情がどう揺さぶられるかということを第一の指針として、ドラマと向き合っていく必要があるのではないかなと思います。 (構成=成馬零一)

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