Z世代のTikTokブームは「地政学的リスク」か? 歴史的悪化を見せるアメリカの対中感情

Z世代のTikTokブームは「地政学的リスク」か? 歴史的悪化を見せるアメリカの対中感情

TikTokは中国企業でありながら、米メタ社のInstagramよりもZ世代で人気のアプリとなり、その使用時間はいまやFacebookとInstagramの合計より長いともいわれる。中国の技術力がアメリカを猛追する中で、アメリカではいよいよ「TikTok脅威論」が高まっている。三牧聖子『Z世代のアメリカ』より一部を抜粋して公開。 アメリカにおけるTikTokユーザーのうち、およそ3分の2をZ世代が占めているとみられる 『Z世代のアメリカ』第3章「米中対立はどう乗り越えられるか」より 対中感情の歴史的悪化 現在、アメリカの対中感情は歴史的な悪化を見せている。ピュー・リサーチ・センターが2023年8月末に行った世論調査によると、アメリカの成人の8割以上が、中国に対して否定的な見方をしている。「非常に好ましくない」と回答した割合は44%となり、昨年から4ポイント上昇した。4割の人が「中国はアメリカにとって競争相手やパートナーではなく、敵である」と回答し、昨年から13ポイントの上昇を見せている1。 中国への感情を悪化させている要因の一つは、台湾問題だ。防衛担当者や安全保障関係のシンクタンクからは、数年以内に中国による台湾侵攻があり得るといった発言や報告が相次いでいる。上述の世論調査でも、47%の人が台湾問題を「非常に深刻な問題」と回答し、2年前の回答から19ポイントも増加した。 また、ウクライナ戦争において、中国が「中立」をうたいながら、実質的にロシアに接近していることも、アメリカ国民の対中感情を悪化させている。特に2022年2月、習近平がモスクワに訪問しプーチンと会談した後、中ロ接近への警戒感は高まり、世論調査では6割を超える回答者が中ロ接近を「アメリカにとって非常に深刻な問題」とみなした。国際紛争の解決に向けて米中は協力できないと回答する人は半数以上(54%)にのぼっている。 Z世代のTikTokブームは「地政学的リスク」か? 地政学リスクを専門に扱う米コンサルティング会社のユーラシアグループが毎年発表する「世界10大リスク」の最新版が2023年1月に発表された。そこで9位に挙げられたのが、Z世代の「TikTok(ティックトック)ブーム」だった。TikTokとは中国企業のバイトダンス(字節跳動)が運営する動画共有アプリで、2022年にアメリカで最もダウンロードされたアプリとなった。アメリカだけで、これまでに2億1000万回以上のダウンロードがあったとされ、ユーザーのおよそ3分の2をZ世代が占めているとみられる。 中国企業でありながらTikTokは、米メタ社のInstagramよりもZ世代で人気のアプリとなっており、その使用時間はいまやメタ社のFacebookとInstagramの合計より長いともいわれる。 同社によれば、Z世代は抗議活動を通じ、政治社会を動かそうとする傾向が他の世代と比べて高い「活動家世代」である。長い経済不況、学校での銃乱射事件、コロナ危機など国内外のさまざまな危機を体験しながら育ったZ世代は、既存の政治社会に不満を募らせ、人種差別や性差別の是正、経済的な公正を求めてラディカルな抗議活動に従事する。しかもこの世代は生来のデジタル世代であり、オンライン上でさまざまな抗議を行う術にも長けている―――このようにZ世代は「リスク」とみなされているのである。 中国の技術力がアメリカを猛追する中で、アメリカではいよいよTikTok脅威論が高まっている。TikTokアプリを通じ、アメリカの利用者の個人情報が中国政府に流出しているのではないかといった懸念が高まっているのだ。すでに連邦政府の職員が仕事で使う端末でのTikTokの使用は禁止され、州レベルでも州から支給された端末でのTikTok アプリの使用を禁じる動きが拡大している。2023年3月には、議会下院の外交委員会がTikTokの国内での利用を禁止する法案を可決した。この法案が成立すれば、1億人を超える利用者に影響が出るともいわれている。2023年4月中旬、モンタナ州議会はTik-Tokの運営会社に同州での事業活動を全面的に禁じる法案を全米で初めて可決した。 TikTok脅威論は世論にも浸透している。2023年3月時点でTikTok アプリの禁止に賛成する人は50%に上り、反対する22%を凌駕した。さらに、9割近い人(88%)が個人情報の取り扱いについて中国企業は信頼できないと回答し、まったく信用できないとする人は6割近く(59%)に及んだ。 TikTokを運営するバイトダンスは、中国政府による干渉はないと主張しており、今のところTikTok利用者のデータが中国政府に流出しているという明確な証拠は出てきていない。にもかかわらず、なぜここまで懸念が高まっているのだろうか。その根拠とされているのが、いかなる組織や個人も国家の情報活動に協力しなければいけないと定めた中国の国家情報法だ。この法律の存在ゆえに、中国政府からデータを渡すように要請があれば、中国企業は逆らえないのではないか、アメリカ政府やアメリカ企業の重要な情報が中国政府のもとに渡り、国家安全保障に影響を及ぼすのではないか、といった懸念が生まれているのだ。 続きは『Z世代のアメリカ』でご覧ください。 Z世代のアメリカ 三牧聖子初の新書。米中対立、反リベラリズム、ジェンダー平等、レイシズム――さまざまな角度からアメリカの現在を描き出す NHK出版ECサイトへ Amazon.co.jp 楽天ブックス 著者 三牧聖子(みまき・せいこ) 同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授。東京大学教養学部卒業、同大学院総合文化研究科博士課程修了。米ハーバード大学日米関係プログラム・アカデミックアソシエイト、高崎経済大学准教授などを経て現職。専門はアメリカ政治外交史、国際関係論、平和研究。 関連記事 アメリカ「例外主義」の変化――トランプ大統領が国際秩序にもたらしたものとは 正義や人権を重視するZ世代は、アメリカのイスラエル政策に変化をもたらすだろうか? NHKテキストからの試し読み記事やお役立ち情報をお知らせ!NHKテキスト公式LINEの友だち追加はこちら!

元の記事の確認はこちらクリックでお願いします。 mag.nhk-book.co.jp

この記事を書いた人

目次